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伝えたつもりにならないために
2025.06.30 Mon

2年前、このブログで『レジデント初期研修用資料 医療とコミュニケーションについて』(medtoolz 著)という少しユニークな本をご紹介しました。
医療現場のコミュニケーションをテーマにしながらも、どんな職種にも共通する「伝えることの難しさ」に正面から向き合う内容で、私自身にも強く響いた今でも読み返すことのある大切な一冊です。
あれから2年が経ち、私たちのチームはメンバーが増え、関わる業務も多様になりました。
その一方で、「伝えたつもりだったのに伝わっていなかった」「説明したのに誤解されていた」といったすれ違いも増えてきたように感じています。
そんな中で、新人メンバーと一緒にこの本を読み直す「読書会」を行い「伝えるってどういうこと?」をテーマに議論をしました。
本記事ではその読書会でも取り上げた章から、チーム内のコミュニケーションに活かせそうな3つのポイントを抜き出してご紹介します。
「伝える順番」がすれ違いを生む
「先生お忙しいところ本当に申し訳ありません、○○さんと患者さんがいらっしゃいまして、この人が今日、〇〇時ぐらいに受付に来て、どうしても急なお願いがあるということですので、今の時間可能でしたら、先生に相談をさせていただきたいのですが、申し訳ないのですが、今お時間大丈夫でしょうか」などと、ものすごく丁寧に話を切り出す人がいる。
こういう人は、これだけ長い言葉を費やして本題に入らないから、何が言いたいのかが伝わらない。
書類を書いてほしいなら「今日中に書いてほしい書類があるのですが」でいいし、今すぐ対応しないとトラブルになることならば、「緊急です。今すぐ来てください」で済む。丁寧すぎて本題が見えてこなくて、伝わるのに時間がかかる。
会話が分かりにくい人が、分かりやすくしようとして、客観性とか、丁寧さを磨いてしまうと、会話はたいてい、もっと分かりにくくなる。こういう人に、「もっと短く」とか、「要点だけ教えてください」とお願いしても、言葉はたぶん、もっともっと丁寧になっていって、もっともっと伝わりにくくなる。
情報がどれだけ正確でも、相手が知りたい内容とズレていれば、まるで外国語を話しているかのように感じられてしまう。
これは、私たちの業務においても思い当たる節がありました。
たとえば情報の共有で、時系列や背景から丁寧に説明したつもりが、肝心の結論が見えずに伝わらない。
逆に「要するにこういうことです」と最初に示してから補足する方が、ぐっと伝わりやすくなる。
読書会でも「“順番のズレ”が伝達のズレにつながる」という指摘に、多くのメンバーが頷いていました。
それでは具体的にどのように伝えれば良いのでしょうか。
タグをつけると伝達がスムーズになる
たとえば電話でやりとりするときにも、「〇〇病棟の〇〇です、〇〇さんが急変しました」とか、「〇〇です、報告です」、「指示の確認です」、「書類を書いてもらいたいのですが」とか、名前を名乗った、そのあとにこれから話す内容の「タグ」を宣言してもらう。これで案外うまく物事が回る。
「最初にこういう宣言をする」というルールにするだけで、電話を受けた側の覚悟が決まる。挨拶を聞く数秒間が、ずいぶん楽になる。重要度の高いタグ、たとえば「急変です」みたいなタグなら、それを聞いたその時点で、医師の行動は「病棟に行くこと」に絞られるから、タグを聞いたら、もうそのあとの内容は、聞かなくても行動できたりする。
「相手の心構えを整える」というのは私たちの日常業務にも活かせる工夫だと感じました。
タグというルールを導入すると、電話をかける側もまた、自分がこれから話す内容は、果たしてどのタグに該当する物なのか、考える必要が生まれる。タグが決まれば、電話をかける相手に伝えたいこととか、必要な情報というものが、ある程度自然に決まるから、会話の要点が定まりやすい。
自分がこれから話す内容を、話す前に理解しておくことは、けっこう難しい。言葉というのは、声に出して初めて理解できるところがあって、「会話しながら考える」人の会話は、やっぱり伝わりにくい。
伝達は、制約のある状況で行われないと、かえって難しい。制約なしに、「もっと要領よく」とか、「要点だけ述べてください」みたいに檄を飛ばしても、問題は解決しない。
「タグ」はごく簡単な制約ルールの割りに、電話を受ける側の快適さは、けっこう上がる。
チャットやメール、口頭でのやりとりでも、
- 【相談】仕様の確認について
- 【報告】今日のミーティング内容
- 【依頼】レビューをお願いします
のような、冒頭にタグをつけるだけで、読む側の認知コストはぐっと下がるというのは納得ができます。
緊急度や目的の誤認も防げますし、何より発信側も自分の話したいことを整理できます。
読書会では「タグを決めてから話すと、自然と伝え方が整理される」という声もありました。
タグをつけること自体が、伝える準備なのかもしれませんね。
「不自由な手段」が、伝達の精度を上げることもある
病棟で主治医が、自分の患者さんを担当している看護師さんに仕事を頼むということは、実は意外と手間がかかる。
ナースステーションに出向いた主治医は、こういうときには、そこにいる他の看護師さんに、たとえば「肺炎で入院した〇〇さんの、今の体温を教えてください」とか、「食事量を記録したいので看護記録を見せてほしい」とか、患者さんの担当看護師さんへの連絡を頼むのだけれど、伝言ゲームになってしまうから、意図が上手に伝わりにくい。

同じことを、主治医がナースステーションに自ら出向いて頼むのでなく、ナースステーションに電話を入れて、電話口に出た誰かに用件を伝える、と話が一緒に進む。たまたま電話を取った誰かが否応なく責任者になってしまうから、目当ての看護師さんをつかまえて、主治医が望んだ「正解」をくれる。
人にものをお願いするやりかたとしては、これずいぶん失礼な方法だし、看護師さんの仕事の流れが切れてしまうから、こういうこととは本来、避けるべきではあるのだけれど、直接自分が病棟に行くのと、電話するのと、回答が得られるまでの待ち時間があまりにも違うものだから、どうしても時々、ナースステーションのそばにいるのに電話という手段を使ってしまう。ナースステーションの外から、そこにいる看護師さんに電話するのと、自分が直接そこに出向くのと、物理的な距離感でいったら、直接行ったほうが圧倒的に近いのに。

本書では、医師が病棟にいながらもあえてナースステーションに電話をかける事例が紹介されています。
直接行った方が早そうですが、電話という手段に制約があるからこそ、相手は要件を絞り、即時に動きやすくなる。
これは、私たちの業務でもよくある状況な気がします。
開発の現場でもチャットで延々とやりとりするより、「ちょっとだけいいですか?」の5分対話の方が圧倒的に早く正確なことって、ありますよね。
「何でもチャットで済ませる」「Web会議で済ませる」といった手段に頼りすぎず、あえて制約のある手段を選ぶ判断も時には必要かもしれません。
まとめ
『医療とコミュニケーションについて』は、医療従事者向けの内容でありながら、
チームで働くすべての人にとっての「伝達の重要さ」に気づきを与えてくれるものでした。
説明を尽くすことよりも、
相手が理解しやすい順番で伝えること。
相手が構える時間をつくること。
あえて不自由な手段を選ぶことも選択肢の一つ。
読書会であるメンバーがこんな感想を残してくれました。
「最初の一言って大事ですね」
今、私たちのチームには、たくさんのメンバーがいます。
だからこそ、それぞれの「一言」が、チーム全体のスムーズな流れを支える鍵になっているのだと思います。
次に誰かに何かを伝えるとき、あなたは「最初の一言」に何を言いますか?